木目を読む仕事。
仕上げ担当の10年
佐藤さん
午前八時、工場の東側の窓から朝の光が入ってくる。組み上がったばかりの椅子が、佐藤花子さんの作業台へ運ばれてきた。ここは仕上げ課——木取りから始まった一本の木が、最後に人の手を通る場所だ。佐藤さんはまず、座面に手のひらをすべらせる。目で見るより先に、手で確かめる。
「見るな、触れ」と言われた最初の一年
入社は2016年、25歳のとき。高山生まれの高山育ちで、高校を出てからは市内で販売の仕事をしていた。木工の経験はまったくなかった。
「入って最初に言われたのが『見るな、触れ』でした。研磨をかけたあと、目で見てきれいでも、手で触るとざらつきが残っている。逆に、傷があるように見えても触ると滑らかなことがある。手のほうが正直なんです」
最初の一年は、ひたすら同じ工程を繰り返した。番手の違う研磨紙を順に当てて、木の表面を整えていく。慣れるまでは、椅子を一脚仕上げるのに先輩の三倍の時間がかかった。
木に聞いてみる、ということ
飛騨木工が扱うのは広葉樹だ。ナラ、クルミ、サクラ——同じ樹種でも、育った場所や乾燥のさせ方で、一枚ずつ性格が違う。
「同じ力で同じようにかけても、仕上がりが違うんです。木目が詰まっているところと粗いところで、オイルの吸い込み方も変わる。だからいきなり全体をやらない。端のほうで少しだけ試して、この板は吸い込みが早いな、と確かめてから本番に入ります」
毎日ちょっとずつ、木に聞いてみる。十年やっても、まだ聞き足りない。
手を止める勇気を覚えるのに、いちばん時間がかかった
入社三年目、納期の迫った案件でのこと。乾燥が甘い板だと気づきながら、そのまま仕上げてしまった。数か月後、納品先で天板がわずかに反った。
「気づいていたのに、言い出せなかった。工程を戻したら全体が遅れる、と思ってしまって。工場長には怒られませんでした。『次から言えばいい』とだけ。それがいちばんこたえました」
いまは、迷ったら止める。止めて、聞く。「手を動かすことより、手を止めることのほうが、覚えるのに時間がかかりました」
雪の季節も、暮らしは続く
通勤は車で十分ほど。完全週休二日制で、土日は基本的に休みだ。冬は雪かきから一日が始まる。
「大変じゃないですか、ってよく聞かれるんですけど、慣れです(笑)。それより、家に帰ってから自分の時間があるのがありがたい。去年から、端材を分けてもらって家で小物をつくりはじめました」
これから
昨年からは後輩の指導も担当している。
「教えるようになって、自分がどれだけ手の感覚だけでやってきたかに気づきました。言葉にするのが難しい。でも、難しいなりに言葉にしていかないと、次に渡せないので」
最後に、この仕事に興味がある人へ。
「未経験でも大丈夫、とは言います。私がそうだったので。ただ、木は待ってくれるけど、急かすと必ず返ってくる。それだけは、最初に知っておいてほしいかな」
※ この記事は表示確認用のサンプルです。登場する人物・企業は実在しません。写真はイメージです。